もう一つだけ紹介したいエピソードがある。いつの頃か、中学生か、あるいはもっと幼い頃か、はっきりしないが、母の買い物に、三味線屋さんについていったことがある。世間話の中で、母が「うちなんか、仕事が少くて。主人も、もう子どもには継がせないって言いますの、食べていけませんもの。」と愚痴っぽく言った。すると、店のおじさん(Tさん)は、「ほんまに、困ったもんで、うちらかて、心配でっせ。そやけど、もう、外の世界から、こんな世界へ、飛び込んで来る人も、おまへんやろ。うちらの子が、後継がんで、どないしまんねん・・・・」と、三味線の皮を張りながら笑顔で言った。私は、子ども心にも「お父ちゃんの言うてることより、このおっちゃんの言うてることの方が正しい。」と思い、ちょっとの間ショックを受け、胸をつかれたような気分がしたのを覚えている。 |